人と人をつなぐ

講師のブログ・Q&A

  • 男性の講師です
    東京都世田谷区
    40歳
    米ハーバード大学大学院/東京大学大学院 Harvard Graduate School of Education/ 東大人文社会系研究科

ハンドルネーム:HGSE2020さんのブログ

良くない習慣の直し方2つ(米国行動療法)


「学校に行くと帰りたくなる」「机を見ると眠くなる」「テキストを開くと別のことを考えてしまう」「親の顔見るとむかついてくる」など、、、

ヨーロッパの教育学や心理学はどちらかと言うとデプス(深いところ)にこだわります。深層ですね。それに対してアメリカは、目に見えるものを重視します。これを行動主義といいます。

行動がうまくいかない状況にあるときに、それを直す方法を行動療法といいます。英語ではBehavior Therapyですね。これはかなり効きます。どういう時に聞くかと言うと、「感情」が関わっている時です。脳科学で言うと、大脳辺縁系、情動(強い感情)が関わっている時ですね。

行動療法は、その後認知療法や、認知行動療法、マインドフルネス、アクセプタンス&コミットメントなど様々なセラピーが生まれてきた現在でも、メインのメインの中核の1つです。

だからお子さんが、とにかく苦手なものがあるとか、勉強ができないとか、嫌なものと勉強が結びついているとか、そのようなときには相当効き目があります。ただ、療法と言ってしまうと病気みたいなので、行動法と言ったほうが良いかもしれませんね、またはセラピーと。

そのうち1つ目が、いわゆるレスポンデント条件付けです。これはノーベル賞をとったパブロフ博士によるものですね。肉を出すとよだれが出ると言う、無条件で生理的な2つの刺激と反応があるときに、全く関係のない、音を聞かせて肉を出し、そうすると、音を効かせただけでよだれが出ると言うメカニズムですね。無条件刺激と無条件反応が、中性刺激を持ち込むことによって、条件刺激と条件反応になってしまうと言う言い方をします。

ややこしいですが、簡単に言うと、「変なきっかけとことが結びついてしまった場合」のことです。これはとてもよく起こることで、例えば不登校で、アラームの音を聞いただけで学校を思い出してしまい、気分が悪くなってしまうといったこともありますし、アルファベットを見ただけで英語を勉強する気がなくなってしまうと言うのも関係があります。

もう一つは、オペラント条件付けです。これは、スキナー博士によるものです。これは、犬が紐を引っ張ると、肉が落ちてくる、そうするとおいしい、と言う構造ですね。紐がある(先行条件)、それを引っ張る(行動)、そして肉が落ちてきて食べる(報酬)と言う3つから成り立っています。この時に、3つ目に良いことがあればあるほど、それを求めて行動を起こすようになります。また3つ目に嫌なことがあると、それをますますしなくなります。強化、弱化の2つがありますね。ここで注目すべきは、60秒以内に報酬や嫌なことが行われないと、オペラント条件付けは成り立たないと言う結果が出ています。

だから模擬試験は記述模擬試験だと帰ってくるまでに2ヶ月位かかったりしますので、遅すぎるわけですね。

動物の訓練は、オペラント条件付けで行われることがほとんどです。犬のしつけなんかはこれでうまくいきますね。良い行動を強化して、良くない行動を弱化するわけです。

人と動物を比べるのには抵抗もありますが、大脳辺縁系、つまり感情が関わっている場合には、同じ事ですから、決して人を動物扱いしていると言うわけではありません。

さて、ご自分のお子さんを観察した時に、良くない連鎖反応が出来上がっている場合、このような行動法で改善することが可能です。そしてレスポンデント刺激とオペラント刺激は絡み合っていますので、どちらかと言うふうに分けられないことが多くあります。

例えば、朝アラームが鳴る、そうすると学校で授業を受けることが自動連想される、そうすると調子が悪くなってしまう、それでも無理して学校に行く、友達は楽しそうだが自分は楽しめない、学校の先生やクラスメイトが嫌な態度をとる、といった循環が当たり前によくあるのですが、前半はレスポンデントの条件付けで、後者はオペラントで、後者によって前者がますます強化されてしまっています。

そういうときには、誰かがお子さんについてあげて、この循環を「消去」することが必要になります。それほど難しいことでは無いのですが、若干手間がかかります。保護者さんが直接行う事は難しいです。というのも、保護者さんはそれまでのやりとりの中で、自分の意思を示しているはずなので、お子さんにあれこれと先入観を与えているからです。

不登校、特に学校恐怖症と呼ばれる不登校については、この行動療法は1つの解決策です。もちろん、絶対に学校に復帰しなければいけないわけでは無いのですが。学校に行かない生き方もいくらでもあります。ただ、学校が怖くて行けないと言うのは、その後の社会生活で大きなトラウマになってしまうことがあるので、行こうと思えば行けるようにすることは、大切なことだと思います。

さて、そのような大きな事でなくても、ある科目がどうしても勉強する気にならないとか、苦手意識が抜けないといった、考え方の習慣にも、大きく力を発揮するのがこの行動療法です。

ところで、これをもう少し現代風にアレンジした、認知行動療法 Cognitive Behavior Therapy が生まれ、これはCBTと言ってかなり流行しています。例えばお酒をやめたいとかタバコをやめたいとかにも強い力を発揮しますね。また家庭内での暴力とか、子供が保護者に乱暴に接してしまうといった反応を消去するのにもなかなか強力です。

ただ、もっともっと大きな、生き方に関係するような悩みをお子さんが持っている場合は、表面に現れた行動だけで判断しない方が良いので、精神分析的なツールを使ったほうがずっとお子さんの生き方は良くなる傾向にあります。ですから、お子さんが根本的なことで悩んでいたり、真剣にアイデンティティーのことで悩んでいる場合は、行動療法や認知行動療法だと、表面的な対処策になってしまいますのでお勧めできません。

医学モデルは薬物療法です(最近では薬物療法に頼らない、心理療法を行える精神科医もそれなりにはいます。ただそれは医学モデルではなく、あくまでも医者が心理療法を勉強したと言うことです)。薬物療法は即効性がある、と飛びつく人もいるのですが、思春期で薬物療法を受けてしまうと、「自分は薬物のおかげで普通にしていられる」と言う認識が子供の中にできてしまいます。それは決して良いこととは言えません。家庭内で下手すると暴力や事件が起きそうな時や、子供がもしかしたら自傷行為をしてしまうかもしれないといった場合以外には、簡単に薬物療法に進む事は差し控えるべきでしょう。ボーっとする薬を与えられて終わりと言う反省はアメリカでもヨーロッパでもとても大きいです。専門家であれば、医学の対象、つまり患者であるのか、それとも心が傷ついている心因性の問題であるかは、判断できます。

何かその方面で困っていることがあれば、ご遠慮なく相談くださいね。